黒柳徹子さんが思うテレビとSNS、舞台と映画
黒柳徹子さんは、日本におけるテレビ開局時の最初の放送に俳優として出演。その後、俳優はもちろん、キャスター、司会者としても数多くの伝説的な番組で活躍していることは多くの人が知っている通り。
現在も「徹子の部屋」「世界ふしぎ発見!」などのレギュラー番組を抱える他、SNSでの活動、舞台出演も続けるなど、その超人的な活躍は黒柳さんを置いて他にはいない。
ロングインタビュー第3回目は、現在のテレビとSNSについてのお考え、ライフワークとして続けている舞台、演じることなどについて話を伺った。
インタビュー/構成:佐々木誠(映画監督)
ーー1953年に日本でテレビ放送が開始された、ちょうどその日から現在まで、黒柳さんは常にテレビの第一線で活躍されています。
この70年間、家庭内の娯楽の中心だったテレビですが、インターネットが普及して、娯楽の楽しみ方も選択肢が増えました。そのことについてどうお考えですか?
黒柳:インターネットが普及して、SNSなんかが出てきたとき、すぐにテレビがなくなっちゃう、みたいなことを言っている人が多かったけど、私はそうは思わなかったです。
テレビは私の仕事の大きな部分を占めますが、一視聴者として、テレビを観るのも好きなんです。仕事を終えて、家に帰ってきて「今日1日疲れたね」なんて話しながら、大きなテレビ画面でニュースなんかを観る、その日常が好きなんです。
スマホなどでテレビや配信番組を観たり、SNSを楽しむのも良いと思いますが、テレビは、私にとって、やっぱり特別なものなんです。
ーーテレビのお仕事と並行して、InstagramやYouTube番組も2年前から始めていますね。トモエ学園から続く自由な、黒柳さんらしい柔軟な活動だと思いますが、やってみてどうでしょうか?
黒柳:面白いですよ。それは、テレビとはちょっと違う、個人をフィーチャーした面白さですね。
この前はYouTube番組で、生まれて初めて回転寿司を食べにいきました。
ーー観させていただきました。結構食べられてましたよね。面白かったです!
黒柳:ありがとう! そう、美味しかったし楽しかったので、いっぱい食べました(笑)。
SNSは観た方のコメントを読むのも楽しいですよね。新しいクリエイティブの場でもあるし、コミュニケーションの場だとも思います。テレビはそういう意味では良くも悪くも一方的ですよね。かつてのラジオなんてもっと一方的でした。
だから、SNSで行う新しいコミュニケーションっていうのは面白く感じます。
ーーこれまで黒柳さんと全く接点がない若い人とも交流できたりするわけですからね。そういうところは、第2回のインタビューでおっしゃられていた、先入観を持たずにフラットに人と接するところにもつながるのかな、と思います。
黒柳:そうですね。そういうところもあると思います。
ーーテレビ、SNSと並行して、今年の9月には朗読劇「ハロルドとモード」の再演がはじまりますね。
黒柳さんが演じるモード役は、実は黒柳さんご自身にかなり近いのでは、と勝手に思ったりしてました。年齢とかではなく、自由を体現している所にそれを感じます。
黒柳:それは嬉しいですね。
ーー19歳のハロルドが80歳のモードに惚れちゃう話ですが、若い時に映画版(71年公開)を観た時は「え?」と思ったんですけど、今観るとモードは本当に魅力的なのでそれはありえるな、と。
黒柳:私は1977年に、フランス人女優のマドレーヌ・ルノーがモード役を演じた舞台を観に行ったのが最初です。素敵な物語だなと思って、その時は涙が止まりませんでした。
当時はまだ若かったので、自分が演じるとは全く考えてはいませんでしたが、それから時が経って、文学座で先輩の長岡輝子さんが演じている舞台を観た時に、モードのことを完全に理解できる年齢になったので、やってみたい、と思いました。
ーーそれで朗読劇として始められて、今回で4回目。ライフワークとなっていますね。
黒柳:2020年から始まりました。
朗読というのはお芝居と違って衣装をたくさん作ったり、舞台の端から端まで歩いたり、その他いろんな事をしなくてもいい。極論すれば座っているだけでも世界観を作れる所が魅力です。思ったよりずっとお金もかからないですし(笑)。
「ハロルドとモード」は朗読劇に向いている作品だと思います。マイノリティに対する思いも盛り込まれています。
ーー来年、再来年とまだまだ「ハロルドとモード」は続くのでしょうね。今後演じてみたい舞台とか、演出家の方がいらっしゃったりしますか?
黒柳:色んな方とやってみた方がいいんだと思うんですけど、これまでそんなにご縁がなくて。
今回、演出をやっていただいているG2さんとの経験はとても面白いですね。これまでは2人の演出家と取り組んできましたけど、今回ご一緒してみて新しい人ともやっていけるんだなと思いました。
ーー黒柳さんが一番好きな、影響を受けた映画ってなんでしょうか?
黒柳:いっぱいあるけど、やっぱり若い時に観たフランス映画の「天井桟敷の人々」ですね。
ーー役者さんで影響を受けた方は?
黒柳:うーん、これもたくさんいらっしゃるけど、私が観に行った舞台版の「ハロルドとモード」でモードを演じたマドレーヌ・ルノーさんかな。すごく美人ってわけじゃないけど、上品でユーモアがある素晴らしい俳優さんです。
そういえば、彼女の旦那さんは「天井桟敷の人々」の主役のジャン=ルイ・バローさん。そう考えると、私はこのフランス人の俳優夫婦に影響受けているのかもしれませんね。
いよいよ次回が最終回。Vol.4では、「豊かな普通」について黒柳さんと共に考えてみました。お楽しみに!
インタビュー実施日:2023年7月14日
黒柳徹子(くろやなぎ てつこ)
東京・乃木坂生まれ。NHK専属のテレビ女優第1号として活躍。文学座研究所、ニューヨークのMARY TARCAI演劇学校などで学ぶ。日本で初めてのトーク番組『徹子の部屋』は48年目をむかえる。著作『窓ぎわのトットちゃん』は800万部というベストセラーの日本記録を達成し20以上の言語に翻訳される。日本語版の印税で社会福祉法人トット基金を設立。ユニセフ親善大使。日本ペンクラブ会員。ちひろ美術館館長。東京フィルハーモニー交響楽団副理事長。日本パンダ保護協会名誉会長。文化功労者。日本芸術院会員など。
instagram @tetsukokuroyanagi
インタビュー・構成 佐々木誠(ささき まこと)
インタビュー・構成 佐々木誠(ささき まこと) 映画監督 75年生まれ。近作に「ナイトクルージング」(19)、プロデュース作「愛について語るときにイケダの語ること」(21)などがある。ニューヨーク、ロンドン、フランクフルトなどの映画祭他、イェール大学、南カリフォルニア大学など海外での上映、講演も多数。和田誠氏(イラストレイター/映画監督)とのマコマコシネマトークなど対談イベント、「キネマ旬報」などでの映画評の執筆等幅広く活動。