top of page
執筆者の写真de aone TERRACE CLUB

コムアイさん・太田光海さんインタビュー(前編)

更新日:2023年10月18日

de aone TERRACE CLUB(デュ アオーネ テラスクラブ)は、今後、映画にちなんだイベントや文化的インスピレーションを得られるイベントを定期開催する予定。撮影段階から話題を呼んでいる映画『La Vie Cinématique 映画的人生』を制作中の映画監督で文化人類学者の太田光海さんとアーティストのコムアイさんの自由で挑戦的な発想、行動は、まさにテラスクラブのビジョンそのもの。自由が丘で幼少期を過ごし20代以降の大半はヨーロッパ暮らしの太田さんと、人気ユニット「水曜日のカンパネラ」を脱退後、伝統芸能や社会的活動も増えたコムアイさん。二人が出産の為、アマゾンのワンピス族の村に出発する直前に話を伺いました。


インタビュー/文 : 堀薫


映画『La Vie Cinématique 映画的人生』にみる他者との関係性や世界の見方


コムアイさんの出産までを記録するドキュメンタリー映画『La Vie Cinématique 映画的人生』の「胎児の視点を想像する」というコンセプトについて詳しく伺います。


ー映画のコンセプトである「胎児の視点」が今、必要だと思われたのはなぜでしょうか?


太田光海(以下太田):僕らが今生きているのは、それぞれの人にとってそれぞれの巨大な世界が成立しうる世界。今後、メタバースやバーチャル世界に生きている、みたいな人も出てくるだろうし、何がその人にとっての真実で常識なのかは個々による差が大きくなっていくと思います。


他人に干渉されず個人が個人らしく存在できるという面には、僕も助けられている部分があります。しかし、皆、この同じ地球に生きていて、食べ物や水は不可欠、空気が汚れていても生きていけないわけで、皆それを分かち合っています。なので個人が好き勝手に自分らしくいればいいというだけでは、立ち行かない世界になっていくと思っています。


僕らが制作する今回の映画を発表した時も炎上※しましたが、WEB上では毎日何かしら炎上や意見の対立が続いています。僕らは今、それぞれが選択したバブルにある種閉じ込められたように生きていますが、そこを超えて他者と向き合う時に「これはよくない」「この人たちがやっている事はおかしい」と思う前の意識状態に戻り、自分自身の考えに疑問を持つことが大事な気がしています。


前作「カナルタ 螺旋状の夢」では、制作中エクアドル南部のシュアール族の村に1年間滞在しました。その時に触れたアマゾンの人たちの「発想の柔らかさ」はとても新鮮だったし、今の世界に必要だと思いました。自分にとって大事なものを守ろうという軸はあるのですが、新しい発想や考え方が入ってきた時に「それはおかしい」とは言わずに、どんどん他者に開いていきそれをスポンジのように自分のものにする。その受け止め方にまっさらな胎児的な柔軟さを感じますし、コムちゃんもそういういう面がある人です。


※二人の籍を入れずに子供を持つパートナーシップの形式や、出産場所について一部から非難され、一時炎上が起こった。


本当に共通しているのは生まれてきたことくらい


太田:つまり「胎児の視点」として言えることの一つは、新しい出来事や他者に対してオープンでいるということです。


僕らがアマゾンに自分たちの子どもを連れて行ったら、アマゾンの日常をそのまま認識して受け入れるでしょう。周りの子どもたちが川で水浴びしながら素手で魚を獲っていたら、「へー魚ってそうやって獲るんだ」と思って自分もやるかもしれない。


アマゾンで僕は現地の人から「お前の血は赤いのか」とよく聞かれました。彼らはそのレベルから確認したがる。「お前も肉があって骨があって、血が流れていてその血は赤いんだろ?じゃあ、俺らと同じだから大丈夫だ。後のことは違うけどいいじゃないか」と。




コムアイ:いろんな国に行って、いろんな人に会って、あまりに多様な生き方があることに呆然としました。「本当に共通していることは 生まれてきたということ」くらいだと感じます。赤ちゃんとして生まれた時はみんなそんなに変わらないのに、その後身につける言語や文化は全く違います。


人はみんな、生まれてきた事くらいしか共通点がない。そう思えると、狭い価値観で否定していたことをもう一度問い直せる気がします。学校でどう思われるか、近所の人にどう思われるかなどはどうでもよくなり自由になった感覚になれます。


そもそもいろんな価値観があるから、それじゃあ自分の直感だったり、自分自身がどう思うかを一番大事にしたいと思えるんです。


自分も頑固なところがあるのでそこまで柔軟じゃないかもしれないですが、東京に戻って誰か自分と違う意見に触れた時に「まーいろんな考えの人がいるよな」と思える。それが、私が旅をすることが好きな理由です。



リスペクトがあるパートナーシップの強さ


世界中には籍を入れないお二人のようなパートナーシップも多いのでしょうか?


太田:この世界にはいろんな家族との結びつき方をしている人がいます。僕らの選択は日本ではマジョリティではないかもしれないですが、世界全体を見渡したら珍しい関係ではないと思っています。


海外で生活して現地の人達と話す時には、日本のメインストリームで話題にならない事が当たり前だったりします。フランスでは周りの多くがPACS(結婚ではなく、同性または異性の成人二名による共同生活を結ぶために交わされる契約)を選択していたので、そんなに大きな問題と捉えていませんでした。


予想はできていたけど、僕らのスタイルは日本では話題になったりして、やっぱりまだそうなんだなという気持ちがあります。これも僕が日本の常識から解放された状態で何年も過ごしてきたというのも大きいですし、コムちゃんも僕と同じ目線で世界を見ているのでできた選択です。


ー婚姻制度を選ばなかったのはどんな理由でしょうか?


太田:いろいろ理由はありますが、一つは夫として、妻として、こうじゃなければならないという発想を持たないようにしたいというのがあります。


例えば「君ももう妻という立場になったんだから、こういうことをしてくれ」とか、どちらかが一方に対して、これをやらなければいけないとか、やるのがマナーだとか、そういう発想をしない。

全ての人と人は、リスペクトすべき他者同士だと考えています。なので、「身内だしこれくらいでいっか」とは思わないで、常にリスペクトを忘れずに接したいな、と。


「制度」という確実に自分の存在よりも大きいものと対峙すると、そのルールが持っている歴史的な蓄積とか、期待されているものに知らず知らずのうちに囚われてしまう危険性があると思っています。


制度は変えられないとか、その枠組みの中に入ったら自分は何もできないわけではないんですけど、やっぱり制度って重たいので自分1人では勝てないと思ってます。もしかしたら僕らの関係は、制度に入っても変わらないかもしれませんが、今はお互いにとって必要なことをお互いがやるという事が自然にできているこの関係を維持する事が大切だと思っています。



法的に拘束がない関係性を維持するために心がけている事は何でしょうか?


コムアイ:信頼するために嘘をつかずに、楽しいことをちゃんと一緒に楽しめるようにしていくことかな、と思います。


過去は全て共有しなくてもいいと思うんですけど、現在進行していることでずるい気持ちやサボる気持ちで相手に対して見せてはいけない陰の部分を隠し持つと、どこかでお互いが気付いて不安になったりしてしまいますよね。

相手にとって尊敬される人間、魅力的な存在であるために努力して、常にリスペクトし合える関係でいる事も大事だから、気が引き締まりますね。

太田:相手の才能とか力を最大限開花できるようにしたいと思っています。自分を犠牲にしてまでではなく、自然とその人がその人らしくいられるように接していたいと思っています。


この映画で伝えたい世界の見方とは?


太田:この映画は僕のパートナーであるコムちゃんの妊娠から出産までを見つめるという軸主旨ももちろんありますが、もう一つ、彼女と胎児の持っている柔軟な感性が重なるからこそ成立する映画でもあります。映画の良いところは、多くの異なる要素を集約して一つの作品として完成させられることです。


この映画を観ている時、胎児というメタファーとコムちゃんという現実の存在との掛け合いが、自然と認識されていき、言語的に説明されなくても、境界線が溶けていく感覚を覚えるはずです。

そして「マジョリティではない立場を表明する」ことのさらに先に行きたい、というのが僕の意図です。

「マジョリティ」「マイノリティ」で分けるのではなく、「マジョリティなどそもそも存在せず、それぞれが唯一性を伴いながら発生している」という視点を伝えたい。あるいは唯一性自体から発生する普遍性を考えたい。


だからこそ、「胎児の視点を想像する」というコンセプトがあり、「率直であり続ける」という僕とコムちゃんの姿勢があります。


人間の価値観や意見が枝分かれし、それぞれが「衝突する」現象が起こる以前の意識に、擬似的であれもう一度戻ってみたいのです。

この視点が社会にすんなりと受け入れられるかはわかりません。現状を見ると正直厳しいです。しかし、僕が見据えているのはそういう今の価値観に疑問を投げかけることであり、今後数十年、世界が乗り越えるべき問題を打破することに繋がると確信しています。






中編では、二人のルーツを探ります。


インタビュー実施日:2023年6月7日



 

KOM_I(コムアイ)

1992年川崎市生まれ。「水曜日のカンパネラ」のボーカルとして、国内外でツアー・フェスに出演したのち2021年9月に脱退。 岩手のしし踊り、インドの古典音楽、アイヌ音楽など幅広い伝統芸能にインスピレーションを受けながら音楽性の幅を広げている。音楽活動の他にも、ファッション、アート、カルチャー、社会課題(『YAKUSHIMA TREASURE』,「HYPE FREE WATER」難民問題など)を積極的に発信している。映画「福田村事件」には女優として出演している。 Instagram: @kom_i_jp



太田光海(おおた あきみ)

1989年東京都生まれ。映像作家・文化人類学者。神戸大学国際文化学部、パリ社会科学高等研究院(EHESS)人類学修士課程を経て、マンチェスター大学グラナダ映像人類学センターにて博士号を取得。アマゾン熱帯雨林のシュアール族の村に1年間滞在・撮影した初監督作品『カナルタ 螺旋状の夢』を2021年公開。現在制作中の『La Vie Cinématique 映画的人生』は2024年完成予定。

Instagram: @akimiota



bottom of page